野宿女子が問う、クリーン社会の代償 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

野宿女子が問う、クリーン社会の代償

現在観測 第18回

女子高生時代から野宿の魅力にとりつかれて以来、寝袋ひとつで気ままに野宿を愉しむ、ミニコミ誌『野宿野郎』編集長・かとうちあきさん。約20年にわたる活動のなかで浮き彫りになった、“ある変化”とはーー? 野宿を通してみた「いまの日本」について、かとうちあきさんにご寄稿いただきました。

わたし、野宿女子です。

 わたしは野宿が好きで、野宿旅行したり、友だちと近所で集まったりして、飽きることなく、ずーっと(といっても時々)野宿をしています。野宿に憧れて、高校1年生で野宿デビューをしてから、今年でちょうど20年目。めでたいぞ!っということで、ちょっと書かせてください(横暴)。

 いつも、公園や駅、川っぺりなどでテントは張らず、寝袋にくるまって眠っていますが、近隣の方、散歩やジョギング中の方、ホームレスの方、いろんな人たちに出会います。それで、呆れられたり、応援されたり、面白がられたり、見なかったことにされたり……。
 10代20代の頃のように心配される回数は減って、お巡りさんの対応が「補導」から「職務質問」へと変化。「お巡りさんがわたしより年下でお互いになんか気まずい」という問題はありつつも、経験を積み重ね、「いい年をして野宿なんてしていていいんだろうか」という迷いもなくなったいまは、とても野宿がしやすいです。

 気持ちの面が大きいとは思いますが、いま、呼びかけて野宿をしたときに集まってくれる人たちを見ても、かつて貧乏旅行や登山をしていた人が定年退職後にまた野宿をするようになったり、女性が増えたり。不況がつづきお金がかからない楽しみとして「野宿」が上昇してきたのか、世間の「かくあるべし」が薄まったのか、年齢も性別も多様性を帯びてきました。
 わたしは野宿ばかりしていて経験がないのですが、2000年の始めにすら、まだ女性の一人旅はいやな顔をされ、民宿で断られるようなことがあったそうです。
 「若い時に一人旅を計画したが、親に反対されて諦めた」と、70代の女性からお手紙を頂いたこともあります。その方は「いまは野宿旅行をしているあなたのような人がいて嬉しい」「あの時じぶんにも、もっと勇気があれば」と書いてくださっていたのだけれど……。彼女と同じ時にわたしが生まれていたとして、一人旅ができたかはわかりません。女の一人旅ですら「勇気」が必要だった時代を想うと、いまがいちばんいいよ!
 といいながらも、現在、なんだかいやーな変化も、あったりします。公共(や駅などの準公共)の場の管理がどんどんと強まっている、ということです。しかも、コミュニケーションを必要としない、物によって。

オススメ記事

かとう ちあき

1980年神奈川県生まれ。法政大学社会学部卒。在学中、就職活動はせずに旅を続けることを決意。現在もちょこちょこ旅に出かける。2004年、旅ミニコミ誌『野宿野郎』を創刊、編集長にして発行人を務める。が、2010年に第7号を刊行して以来、次は出ていない。著書に『野宿入門―ちょっと自由になる生き方』(草思社文庫)、『野宿もん』(徳間書店)、『あたらしい野宿(上)』(亜紀書房)、『バスに乗ってどこまでも 安くても楽しい旅のすすめ』(双葉社)がある。野宿野郎web http://nojukuyaro.net/


この著者の記事一覧